人物画教室。
教室では、私より少し年上と思える男性が、不満をもらしていた。
「この教室で気に入らんのは、ポーズがいつもいっしょいうことや。椅子にすわって、あっち向くか、こっち向くかだけやろ。立ちポーズも描きたいわ」
70歳くらいの女性が激しく同意。
「ホントホント。前の教室では、立ちポーズもあったよ」
「ボクも、前の教室でも、花持たせて立たせたり、ギター持って立ったり」
「モデルさんが倒れたこともあったわ」
思わず私が、「そら、しんどいですよ」と言ったら、男性が、「むこうはプロやからねえ。それくらいやってもらわんと」
「きびしいですねえ」
「いや、モデルさんが楽なポーズを描くというようなもんやないでしょ」
「そうそう」と女性が応援。
「立ちポーズって、言うてくださいよ」
「うん、言います!」
そこへモデルさん登場。
8頭身美人だ。
この人がサリーを着て立った姿は絵になるかもしれない。
先生がやってきてポーズをつける。
私は、新人なのでということもないが、いつも椅子などの用意をするため先生の指示を待つ。
さっきの男性が、「先生!立ちポーズでお願いします」
先生は、「・・・じゃあ、背の高い椅子に腰掛けてもらいましょか」
「いや、サリーは立ってもらったらきれいやと思うんで」
「・・・」
先生は明らかに気乗りがしない様子だった。
背の高い椅子に、モデルさんが寄りかかれるようにとか、いろいろ工夫する。
結局、脚立にちょっとひじを突くという立ちポーズに決定。
実に美しいポーズであると思って、張り切って描き始めたが、この姿勢を維持することは無理だということがすぐわかった。
休憩を挟むたび、腰の位置、ひざの位置などが微妙に変化するのである。
私は、途中から全身を描くのをあきらめた。
この教室で三十年という、級長的女性が、「そやから、立ちポーズはあかんねんて」とぼそりと言った。
「これだから素人は困る」という感じであった。
たしかにモデルさんはプロだ。
しかし、描き手は素人だ。
この組み合わせで立ちポーズは厳しいと思った。
描き手が、腰やひざの位置の微妙な変化を苦にしないプロか、気にしない素人なら、いいのだろう。
一番いいのは、モデル料をはずむことかもしれない。